肩が上がらない|五十肩と腱板損傷の違いを整形外科専門医が解説

肩が痛くて上がらない症状にお悩みのあなたへ

肩が痛くて腕が上がらない、夜間痛で眠れない、日常生活に支障をきたしている。

「これって五十肩なの?」「腱板損傷との違いは?」「どちらの治療を受けるべき?」

このような不安を抱える方は決して少なくありません。実際に、五十肩と腱板損傷は症状が似ているため区別が困難 という特徴があります。

SBC横浜駅前整形外科クリニック院長の川﨑成美です。本記事では、肩が痛くて上がらない症状の代表的な原因である五十肩と腱板損傷の違いについて、医学的根拠に基づいて解説いたします。

 

肩が痛くて上がらない主な原因

肩関節は人体で最も可動域の広い関節であり、複雑な構造をしています。肩が痛くて上がらない症状の主な原因は以下の通りです。

 

最も頻度の高い原因

 

1. 五十肩(肩関節周囲炎)

50歳代を中心とした中年以降に多く発症する疾患です。

 

2. 腱板損傷(腱板断裂)

肩関節を安定させる重要な筋肉群の損傷です。

 

3. 石灰沈着性腱板炎

腱板に石灰が沈着することで起こる炎症です。

 

特に五十肩腱板損傷は症状が似ているため、患者さんご自身では区別が困難な場合が多く見られます。しかし、これらは全く異なる疾患であり、治療方針も大きく異なるため、正確な診断が重要となります。

 

五十肩(肩関節周囲炎)について

五十肩とは

五十肩の正式名称は「肩関節周囲炎」といい、50歳代を中心とした中年以降に多く発症する疾患です。明らかな外傷や感染などの原因がなく、肩関節周囲の組織に炎症が生じ、肩関節の痛み可動域制限(動きの制限)を主症状とします。

 

五十肩の症状と進行段階

五十肩は典型的な3つの病期を経て進行し、それぞれ異なる症状を示します。

 

急性期(疼痛期):2-9ヶ月

強い肩の痛み(安静時痛)、特に夜間痛で眠れない状態が続きます。寝返りをうつときの痛みも特徴的で、炎症が強く痛みが主体の時期です。

 

拘縮期(凍結期):4-12ヶ月

肩関節の動きが著しく制限され、髪を整えたり衣服の脱ぎ着が困難になります。痛みは軽減するが動きが制限される時期です。

 

回復期:5-24ヶ月

痛みが徐々に軽減し、肩の動きが少しずつ改善します。日常生活動作が徐々に可能になる症状改善の時期です。

 

この病期の進行は個人差があり、適切な治療により回復期間の短縮が期待できます。

 

五十肩の原因とリスク要因

五十肩の明確な原因は完全には解明されていませんが、加齢による肩関節周囲組織の退行性変化が主な要因と考えられています。

 

主なリスク要因

 

1. 長期間の肩の固定

肩を動かさない期間が続くと発症リスクが高まります。

 

2. 糖尿病

発症リスクが2-4倍高くなることが知られています。

 

3. 甲状腺機能異常

甲状腺疾患がある方は特に注意が必要です。

 

これらの基礎疾患がある方は、特に注意が必要です。

 

腱板損傷について

腱板損傷とは

腱板損傷は、肩関節を安定させる重要な筋肉群である「腱板(ローテーターカフ)」の損傷を指します。腱板は4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)から構成され、肩関節の安定性と動きをコントロールする役割を担っています。

腱板損傷には部分断裂完全断裂があり、五十肩とは異なり、断裂した腱が自然に治癒することはありません。

 

腱板損傷の症状

典型的な症状

肩の痛み(特に腕の上げ下げの途中での痛み)、肩の筋力低下、夜間痛(五十肩より軽度)が主な症状です。

 

日常生活での困りごと

重いものを持ち上げられない、洗濯物を干すときに痛む、電車のつり革につかまると痛いなどの症状が現れます。

 

腱板損傷の原因と年齢的特徴

腱板損傷の原因は、大きく外傷性変性(退行性)に分けられます。

 

外傷性の原因

転倒時に手をついた、スポーツでの肩の強打、重いものを急に持ち上げたなどが挙げられます。

 

変性(退行性)の原因

加齢による腱の劣化、繰り返しの使用(オーバーユース)、腱への血流不足などが原因となります。

 

腱板損傷は60歳以降に多く見られ、五十肩よりも高い年齢層での発症が特徴的です。加齢とともに腱の強度が低下し、日常生活の軽微な動作でも断裂が生じやすくなります。

 

五十肩と腱板損傷の違い(詳細比較)

五十肩と腱板損傷は、どちらも肩の痛みを引き起こしますが、多くの点で異なる疾患です。

項目 五十肩(肩関節周囲炎) 腱板損傷
発症年齢 40-50歳代が中心 60歳以降が多い
原因 明らかな原因なし(特発性) 外傷または加齢による腱の劣化
主な症状 可動域制限が主体 筋力低下が主体
痛みの特徴 動かせない段階で痛む 動作の途中で痛む
夜間痛 強い夜間痛あり 夜間痛あり(五十肩より軽度)
可動域制限 著明な制限(全方向) 軽度~中等度の制限
筋力低下 痛みによる二次的な低下 腱断裂による直接的な低下
自然経過 2-3年で自然軽快することが多い 自然治癒はしない
治療方針 保存療法が中心 保存療法または手術療法

 

症状の見分け方

五十肩の特徴的な症状

肩が「凍りついた」ように動かない、他人が動かそうとしても動かない(他動的可動域制限)、服の脱ぎ着が非常に困難などの症状が現れます。

 

腱板損傷の特徴的な症状

肩は動くが動かすと痛い、他人が動かすと痛みは軽減される(他動的可動域は比較的保たれる)、腕を上げる途中で力が抜ける感じなどが特徴です。

 

これらの違いを理解することで、ご自身の症状がどちらに近いかある程度判断できますが、最終的な診断は必ず整形外科専門医による診察と検査が必要です。

 

診断方法と検査

肩の痛みの正確な診断には、詳細な問診、理学検査、画像検査が重要です。整形外科専門医は、症状の始まり方、痛みの性質、日常生活での困りごとなどを詳しく聞き取り、専門的な検査により五十肩と腱板損傷の鑑別を行います。

 

理学検査のポイント

自動可動域と他動可動域の差を評価し、腱板損傷の特殊検査(棘上筋テスト、ドロップアームテストなど)を行います。インピンジメントテストによる肩峰下での痛みの確認も重要です。

 

画像検査の役割

レントゲン検査では骨折や関節症の除外、石灰沈着の確認を行います。MRI検査では腱板断裂の詳細な評価、関節包の肥厚の確認が可能です。超音波検査ではリアルタイムでの腱板の動きを観察できます。

 

診断は、初診時の評価から始まり、1-2週間後に治療効果をみて、必要に応じて精密検査を行い、確定診断と治療方針を決定します。

 

治療法の選択肢

五十肩と腱板損傷では、治療方針が大きく異なります。患者さんの年齢、活動レベル、症状の程度に応じて最適な治療法を選択いたします。

 

五十肩の治療

五十肩の治療は病期に応じて段階的に行います。

 

急性期(疼痛期)の治療

薬物療法では消炎鎮痛剤(NSAIDs)、筋弛緩剤を使用します。注射療法ではステロイド関節内注射、ヒアルロン酸注射を行います。過度な安静は避け、痛みの範囲内での軽い運動を推奨します。

 

拘縮期(凍結期)の治療

理学療法として専門的なリハビリテーション、主に可動域訓練を行います。

 

回復期の治療

積極的な運動療法により可動域の改善と筋力強化を図り、適切な肩の使い方の指導を行います。

 

腱板損傷の治療

腱板損傷の治療は、保存療法手術療法に大きく分けられます。

 

保存療法の適応

部分断裂で日常生活に大きな支障がない場合、高齢者の小さな完全断裂や手術リスクが高い患者さんに適用されます。

 

保存療法の治療内容

薬物療法ではNSAIDs、筋弛緩剤による痛みと炎症の軽減を図ります。理学療法では可動域訓練、筋力強化による機能改善を行います。

 

手術療法の適応

大きな完全断裂で日常生活に著しい支障がある場合、保存療法で改善しない場合、若年者や活動性の高い患者さんに適用されます。

 

手術方法

関節鏡視下腱板修復術は中等度の断裂に対する低侵襲手術です。リバース型人工肩関節は修復不可能な断裂に対する機能再建手術です。

 

治療選択は、断裂の大きさ、患者さんの年齢や活動レベル、症状の程度、発症からの期間を総合的に判断して決定します。

 

リハビリテーション

どちらの疾患においても、リハビリテーションは痛みの軽減、可動域の改善、筋力の回復、日常生活動作の改善、再発予防を目標として段階的に行います。

 

新しい治療法

従来の保存療法と手術療法の間を埋める新しい選択肢として、PRP(多血小板血漿)療法などの再生医療が注目されています。これらの治療法は、組織の修復促進や痛みの軽減効果が期待されています。

 

まとめ

肩が痛くて上がらない症状は、五十肩と腱板損傷という異なる疾患が原因となることが多く見られます。

項目 五十肩 腱板損傷
特徴 肩が「凍りついた」ように動かない 肩は動くが筋力が低下
年齢 40-50歳代に多い 60歳以降に多い
原因 明らかな原因がない 外傷や加齢が原因
経過 2-3年で自然軽快することが多い 自然治癒はしない
治療 保存療法が中心 保存療法または手術療法

 

肩の痛みが2週間以上続く、夜間痛で眠れない、日常生活動作に支障があるなどの症状がある場合は、早めに整形外科専門医を受診することをお勧めいたします。

 

受診を検討すべき症状

肩の痛みが2週間以上続く、夜間痛で眠れない、日常生活動作に支障がある、腕に力が入らない、肩を動かすときに音がするなどの症状がある場合は専門医にご相談ください。

 

治療が著効するためのポイント

早期の正確な診断、病期に応じた適切な治療、継続的なリハビリテーション、日常生活での注意点の実践、定期的な経過観察が重要です。

 

よくある質問

Q1: 五十肩は自然に治りますか?

A: 五十肩は多くの場合、2-3年の経過で自然に軽快する傾向があります。

しかし、適切な治療を行わない場合、回復期間が長期化したり、可動域制限が残存したりするリスクがあります。早期に適切な治療を開始することで、症状の軽減と回復期間の短縮が期待できます。

特に急性期の強い炎症に対する治療は重要で、放置すると拘縮期の症状が重篤化する可能性があります。

 

Q2: 肩の痛みを予防する方法はありますか?

A: 肩の痛みの完全な予防は困難ですが、以下の対策により発症リスクを軽減できます。

適度な運動習慣の維持、肩甲骨周囲のストレッチ、正しい姿勢の意識、肩の冷えを避ける、ストレッチの習慣化などが効果的です。

また、重いものを急に持ち上げる、肩より高い位置での長時間作業、同じ姿勢での長時間作業、肩を冷やす環境での作業は避けるよう注意しましょう。

糖尿病や甲状腺疾患などの基礎疾患がある方は、これらの疾患の適切な管理も肩の痛みの予防につながります。

 

参考情報

肩の痛みについてより詳しく知りたい方は、以下の信頼できる医学情報源もご参照ください。

 

日本整形外科学会 – 五十肩(肩関節周囲炎)

日本整形外科学会 – 肩腱板断裂

日本肩関節学会

 

肩の痛みは専門医による正確な診断と適切な治療により改善が期待できる疾患です。

腰痛でお悩みの際は、お気軽にSBC横浜駅前整形外科クリニックまでご相談ください。

 

監修医師

SBC横浜駅前整形外科クリニック

院長川﨑 成美 Narumi Kawasaki