階段で膝がつらい人へ

階段の上り下りで膝が痛む方へ

階段を上る時や下りる時に膝の痛みを感じていませんか。「年齢のせいだから仕方ない」と諦めている方も多いかもしれませんが、適切な対策を行うことで膝の痛みは改善できる可能性があります。
本記事ではSBC横浜駅前整形外科クリニック院長の川﨑成美が、階段で膝が痛くなる原因から具体的な対策方法まで、医学的根拠に基づいて分かりやすく解説いたします。
階段昇降時の膝の痛みは決して珍しいものではなく、適切な理解と対策により症状の改善が期待できます。
膝の痛みでお悩みの方が、より快適な日常生活を送れるよう、専門医としての知見をお伝えします。
 

階段で膝が痛くなる主な原因

変形性膝関節症が最も多い原因

階段昇降時の膝の痛みの最も多い原因は変形性膝関節症です。これは膝関節のクッションの役割を果たす軟骨がすり減り、骨同士が直接こすれ合うことで痛みや炎症が生じる疾患です。
変形性膝関節症は加齢とともに発症率が高くなります。40歳以上の有病率を見ると、男性で42.6%、女性で62.4%となっており、特に女性に多く見られる疾患です。60歳代の女性では約半数が変形性膝関節症を患っているという統計もあります。

階段昇降時に膝への負担が大きくなる理由

なぜ階段の上り下りで特に膝が痛むのでしょうか。これは階段昇降時に膝関節にかかる負荷が平地歩行よりもはるかに大きいためです。 平地を歩く時、膝関節には体重の約3~4倍の負荷がかかります。しかし階段昇降時には、体重の6~7倍もの負荷が膝関節にかかることが分かっています。
体重60kgの方であれば、階段を上り下りする際に膝には360~420kgもの重さがかかっている計算になります。
 

動作 膝関節への負荷 体重60kgの場合の負荷
平地歩行 体重の3~4倍 180~240kg
階段昇降 体重の6~7倍 360~420kg
立位 体重の1倍 60kg

 

年齢による関節の変化

加齢に伴い、膝関節を構成する軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われていきます。また、関節を支える筋肉の量も年齢とともに減少するため、膝関節への負担がより大きくなります。
特に50歳を過ぎると変形性膝関節症の発症率が急激に上昇し、70歳以上では半数以上の方が何らかの膝関節の問題を抱えているとされています。
 

階段昇降時の膝の負担を軽減する方法

正しい階段の上り下り方法

階段昇降時の膝への負担を軽減するためには、正しい方法で上り下りすることが重要です。
    
階段を上る時のポイント:  
・足全体で踏み込み、つま先だけで上らない
・膝を曲げすぎないよう、歩幅を小さくする
・上半身を前傾させすぎない
    
階段を下りる時のポイント:  
・手すりでしっかりと体重を支える
・ゆっくりと足を下ろし、勢いをつけない
・膝を伸ばしたまま着地しない
 

手すりの効果的な活用法

手すりを使用することで、膝関節への負荷を20~30%軽減できることが研究で示されています。手すりは単に転倒防止のためだけでなく、膝の負担軽減にも大きな効果があります。 手すりを握る際は、体重の一部を腕で支えるイメージで使用しましょう。
特に階段を下りる時は、手すりでしっかりと体重を支えることで、膝への衝撃を大幅に減らすことができます。
 

筋力強化の重要性

膝関節を支える筋肉、特に大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)を強化することで、膝関節の安定性が向上し、痛みの軽減が期待できます。
日本整形外科学会のガイドラインでも、変形性膝関節症の治療において運動療法の重要性が強調されています。適切な筋力トレーニングにより、膝関節への負担を分散し、症状の改善が期待できます。
 

推奨運動 頻度 効果
大腿四頭筋強化運動 週3~4回 膝関節の安定性向上
ストレッチ 毎日 関節可動域の改善
ウォーキング 週3~5回 全身の筋力維持
プール歩行 週2~3回 膝への負担軽減

 

日常生活でできる膝痛対策

体重管理の重要性

体重の増加は膝関節への負担を直接的に増加させます。体重が1kg増えると、階段昇降時には膝に6~7kgの追加負荷がかかることになります。 適正体重の維持は膝痛対策の基本中の基本です。BMI(体格指数)を25未満に保つことが推奨されています。体重減少により膝の痛みが軽減したという報告も多数あります。
 

適切な靴選び

靴選びも膝痛対策において重要な要素です。クッション性の高い靴底を持つ靴を選ぶことで、歩行時の衝撃を吸収し、膝への負担を軽減できます。
    
膝に優しい靴の特徴:  
・クッション性の高いソール
・適度なアーチサポート
・かかとの高さは3cm以下
 

膝に優しい生活習慣

日常生活の中で膝に負担をかけない工夫をすることも大切です。
    
生活習慣の改善ポイント:  
・長時間の正座や膝立ちを避ける
・重い荷物を持つ時は両手に分散する
・椅子から立ち上がる時は手すりや肘掛けを使用する
・冷えを避け、膝を温める
 

医療機関での治療選択肢

保存的治療

膝の痛みの治療は、まず手術を行わない保存的治療から開始します。多くの患者さんで保存的治療により症状の改善が期待できます。
 
主な保存的治療:  
・薬物療法(消炎鎮痛剤、湿布薬)
・リハビリテーション(運動療法、物理療法)
・装具療法(サポーター、足底板)
 

薬物療法

痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)があり、患者さんの症状や体質に応じて選択します。
 

リハビリテーション

理学療法士による専門的な運動指導や治療により、膝関節の機能改善を図ります。当院では経験豊富な理学療法士が個々の患者さんの状態に応じたオーダーメイドの治療プログラムを作成しています。
 

手術療法

保存的治療で十分な効果が得られない場合、手術療法を検討します。高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術など、症状の程度に応じて適切な手術方法を選択します。横浜市内の連携病院にご紹介いたします。
 

まとめ

階段昇降時の膝の痛みは、多くの方が経験する症状ですが、適切な対策により改善が期待できます。
   
重要なポイント:  
・階段昇降時は膝に体重の6~7倍の負荷がかかる
・変形性膝関節症が最も多い原因
・手すりの使用で負荷を20~30%軽減可能
・筋力強化と体重管理が基本的な対策
・早期の医療機関受診が重要
   
膝の痛みを「年齢のせい」と諦めず、適切な治療と対策を行うことで、より快適な日常生活を送ることができます。症状が続く場合は、早めに整形外科専門医にご相談ください。 当クリニックでは、患者さん一人ひとりの症状に応じた最適な治療プランをご提案いたします。膝の痛みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
 

よくある質問

Q1: 階段を避けて生活した方が良いでしょうか?

A: 完全に階段を避ける必要はありません。適切な方法で階段を使用し、手すりを活用することで膝への負担を軽減できます。ただし、痛みが強い時期は無理をせず、エレベーターやエスカレーターを利用することをお勧めします。日常的な適度な運動は膝関節の健康維持に重要です。
 

Q2: 痛み止めはどの程度使用しても大丈夫ですか?

A: 痛み止めは症状に応じて適切に使用すれば安全です。ただし、長期間の連続使用は胃腸障害などの副作用のリスクがあります。市販薬を2週間以上継続して使用する場合は、医師にご相談ください。根本的な治療と併用することが重要です。
 

Q3: 膝が痛くても運動は続けて良いでしょうか?

A: 軽度の痛みであれば、適度な運動は継続することをお勧めします。ただし、痛みが強い場合や腫れがある場合は運動を控え、医師にご相談ください。水中ウォーキングやストレッチなど、膝への負担が少ない運動から始めることが効果的です。
 

参考情報

日本整形外科学会「変形性ひざ関節症の運動療法」

日本リハビリテーション医学会「変形性膝関節症診療ガイドライン」
 
膝の痛みでお悩みの際は、お気軽にSBC横浜駅前整形外科クリニックまでご相談ください。


監修医師

SBC横浜駅前整形外科クリニック

院長川﨑 成美 Narumi Kawasaki